杜若(かきつばた)

 矢田です。

 締め切り間近の原稿、筆が一向に進まないので、気分転換にと「杜若(かきつばた)」を見てきました。

 この近辺では、名鉄三河線「三河八橋駅」から徒歩で十分ほどの「無量寿寺」が有名ですね。その本堂裏の大きな庭園には、数え切れないほどの「杜若(かきつばた)」が植えられていて、毎年この時期に花を咲かせますが、今年も青紫色の花が目にも鮮やかに咲き誇っていました。
 この付近には、昔から「杜若(かきつばた)」が自生していたようです。『伊勢物語』第九段「東下り」にも、都落ちして東国に向かうことになったある男が、その道すがら「三河の国の八橋」という所に差し掛かった折りに、沢に咲く「杜若(かきつばた)」の花を目にした同行者から、「〈かきつばた〉の五文字を各句の頭において、旅の思いを詠め」と求められたので、「かろごろも、きつつなれにし、つましあれば、はるばるきぬる、たびをしぞおもふ」という和歌を詠んだ、という話が載っています。この和歌は、『古今和歌集』巻九「羈旅歌」にも収められており、そこでは作者を在原業平としています。
 「杜若(かきつばた)」の花をひとしきり堪能した後、かつての「鎌倉街道」沿いにある「根上がりの松」を見に行きました。「無量寿寺」の入り口から南へ延びる道を進み、一つ目の信号の所で交差する道が「鎌倉街道」です。そこを右に曲がり「鎌倉街道」に入って、十分ほど歩くと、名鉄三河線の踏切が見えてきます。「根上がりの松」はその踏切の手前にあります。一説に、歌川広重が『五十三次名所図会(池鯉鮒)』で描いた松とも言われています。
 「根上がりの松」を見た後、最後に踏切を渡ってすぐ右手にある「在原業平の墓所」をお参りして、帰ってきました。

 気分転換の甲斐あって、締め切り前に原稿を書き上げることができました。